FREE AREA1

コチラは宇宙世紀、1st・z・CCA以降など。
メインはシャア様、セイラさんと友人兼恋人のようなアムロ、シャア様の愛犬が登場してます。
基本はほのぼの、偶に年齢制限有り。温いですが一応忠告。

3

シャアが昔の事を思い出したのは一瞬で、親しかった人々を何人か思い出したに過ぎなかった。自分が何者で(職業は思い出したらしいが)、どういう経緯を以って今に至るかは、シャアの中では未だ不明瞭なままだ。
アムロとセイラは慎重に言葉を選び、懸命に記憶の糸を手繰り寄せようとするシャアを宥めた。
性急に思い出し、精神に異常をきたしてしまっては何にもならない。
シャアはそこまで脆弱な精神の持ち主ではないが、常人には過酷過ぎる過去を持ち、己の意思を捻じ曲げてまで負の遺産を成し遂げようとした純粋なシャアを、無理矢理に追い詰めたくはない二人だった。
長い年月を経てやっと兄妹の生活を手にいれたのに、全て思い出してしまえば、又あの殺伐とした世界へシャアが戻ってしまうような恐怖感が拭えなかった。
優しい兄が他人を痛めつける姿を見て、『大嫌い』と泣きながら訴えた事が脳裏に甦る。
もう人を傷つけて欲しくない。シャアの心にも見えない傷が幾重にも重なり、ズタズタになっていくのが解るだけに、セイラの願いは切実だった。
「兄さん、無理に思い出そうとすると逆効果よ。さっきみたいに、何かの切欠で思い出すほうがいいのよ、無理しないで」
「そうだよシャア。いいじゃないか、ブライトやカミーユだけでも思い出したんなら上等さ。貴方は少しせっかちなところがあるからな、もっとのんびり構えた方が精神的にもいいよ。それに…今は食事中だろう?」
3人で食卓を囲みながら、ともすれば伏目がちになるシャアを、セイラとアムロは現実に引き戻す。アムロの言う通り、常に二手先、三手先を読みながら生きてきたシャアは、現在地に立ち止まり息をつくことをしない。今も、暖かい食事をそっちのけで物思いに耽ってしまうのだから、注意されても仕方がなかった。
「あ、ああ。そうだな、すまないアムロ」
「謝るなら俺じゃなくてセイラさんに。折角作ってくれたのにさ…ああ、いいよなシャアは!毎日こんな美味い食事できてさぁ!俺なんてほとんどジャンクフードだから羨ましい通り越して憎いよ、チクショウ!」
アムロはここから少し離れた街の中に独りで暮している。得意分野の機械いじりを職に選んだだけあって、短期間のうちに開発主任に抜擢されていた。
結構忙しいらしく、こうして3人で食事をするのも二週間ぶりだった。
「あら、アムロのことだから、作ってくれる人には困らないんじゃなくて?」
セイラが意味深に笑いながら返せば、アムロはとんでもないと言った風に顔を歪め、首を横に振った。
「そんな人いないよ、セイラさん。最近俺、ほとんど研究所の宿直室で寝泊りしてるんだよ?居るのは夜勤警備のオジサンだけさ。でもオジサン達は家から弁当持ってきたりするから、奥さんの美味しい料理を夜食に食ってたりするんだけど、俺はその辺で買って来たモンでしょ…侘しいったらないね、本当に」
「まぁそうだったの。それは失礼な事を言ったわ、ご免なさいねアムロ。でもね、兄さんも時々作ってくれるから、私が全部食事の支度しているんじゃなくてよ?」
「え。ええええ?シャアが?作れるの?ホントに?」
口に入れたばかりの肉片をゴクリと飲み込んで、素っ頓狂な声を上げるアムロに、持っていたカトラリーを置き、テーブルに両肘をついて手を組んだシャアがチラリと横目で見る。
「…なんだアムロ。黙って聞いていれば随分失礼な言種だな。私だって料理くらいは出来るぞ」
「そう。序でに掃除や洗濯もね、上手なものなのよ」
「へぇぇぇ~。シャアが、ねぇ」
物珍しそうに、まじまじと見つめてくるアムロの視線が忌々しい。
昔の自分はそんなに何もしなかったのか、と憤慨に陥る一歩手前で、当のアムロから同意の言葉が発せられた。
「あ、でもシャアは器用だし骨惜しみしない人だから、まとまった時間があればそういうの好きそうだね。一度、ぬかるみにはまったカートを引き出して貰ったことがあったよ。結構手馴れててさ…あの時はまだ」
ジオン軍の赤い軍服姿のシャアと、ワンピース姿のララァが浮かぶ。
運転手が未熟だから、とシャアは泥に汚れながらカートを引っ張ってくれたのだった。それが初めて、"赤い彗星のシャア"を視認した時だった。
そして、シャアをかばって自分の刃に斃れたララァの存在が、アムロの胸に郷愁を呼び起こす。
忘れたくても忘れられない、その為に宙へ上がることを頑なに拒んでいた過去が、鮮明に思い出されてくる。
けれど、苦しいだけだった過去が今は懐かしく思えるのは、ひとつの時代が終わりを告げた証拠なのだろう。
言葉をとぎらせたままのアムロに、「あの時は…どうしたのだ?」とシャアが先を促せば、アムロは浮かんだ苦笑を噛殺し悪戯っぽい笑みを張り付かせた。
「あの時は…まだシャアも若かったっけな~と思ってさ!!」
何となく事情を察したセイラがアムロを気遣わしげに見遣ると、アムロは微笑んで頷いた。
(もう俺はララァを吹っ切った。シャアを殺さず生かすことに決めた時、あの確執は昇華できたんだ)
だからこそこのひと時が在る。穏やかな日々の営みが在る。
今願うのはライバルを倒すことではなく、かつてのライバルと共に静かに穏やかに暮すこと…。
それが適うならばどんな困難にも立ち向かえる、とアムロは思っていた。
自分だけではなく、セイラもいてくれる事が心強かった。
「そのうちシャアも思い出すよ、昔の若い自分をね。どれだけ老成してたか自分で驚くと思うよ?楽しみだなー。ね、セイラさん」
「ふふっそうね…もしかしたら今より老けた言動してたかもしれないわね」
アムロと共にセイラも微笑う。
「ナンなんだ、一体。二人して私をからかうのか?そんなに老けていたのかね私は」
「「かなり」」
"木馬"において赤い彗星と死闘を演じた二人が、同時にはもって笑い出す。
セイラとアムロの楽しげな様子を見、シャアの顔にもいつしか笑顔が浮かんでいた。
食事が済み、場所をリビングに移してからデザートのケーキが出された。
「ほらシャア!貴方の好きなストロベリーのケーキ!」
お茶は自分が、とかって出たアムロが紅茶とケーキをサーブすると、シャアは苦虫を噛んだような顔で受け取った。
「兄さん、そんな顔してたら美味しくなくなってしまうわ。デザートは楽しく頂きましょ?」
「そうそう。評判の店のだからきっと美味いと思うよ…ほら食べて食べて」
両脇からせっつかれ、渋々ケーキを口に運んだシャアを覗き込むアムロ。
「…どう?」
心配げな表情が捨てられそうな子犬に思えて、シャアは思わず笑い出してしまった。
「ああ。美味いよ、ありがとう」
「そりゃ良かった。セイラさんも食べてる?」
「ええ、美味しく頂いてるわよ、アムロ」
「どれ、じゃあ俺も一口…。うん、美味い。ここのは当たりだな」
「じゃあ次もお願いね?」
「勿論!」


湖畔の一軒家ではその晩、遅くまで明りが灯り楽しげな笑い声が聞こえていた。

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